「機動戦士ガンダムUC ユニコーンの日」福井晴敏 (著) 角川文庫 (刊)

工業用コロニーに住む平凡な少年、バナージ・リンクスは、謎の少女オードリー・バーンを助けたことから『ラプラスの箱』を巡る事件に巻き込まれてゆく。宇宙世紀の開闢とともに生まれ、開放されれば連邦政府が転覆すると言われる『箱』の正体とは―。『逆襲のシャア』から3年後、宇宙世紀0096を舞台に、新たなるガンダムが世界に革新の予感を告げる。『亡国のイージス』『終戦のローレライ』の著者による人気小説が文庫化。

『袖付き』と呼ばれる反政府組織と、ビスト財団の間で行われていた『ラプラスの箱』を巡る謀議は、連邦軍の介入によって破局を迎えた。工業用コロニー“インダストリアル7”で始まる戦闘。オードリーを追って戦火の中を走るバナージは、純白のモビルスーツユニコーン”と出会う。人の革新―ニュータイプの力が覚醒した時、“ユニコーン”はその真の姿を現した!文壇の気鋭・福井晴敏が描く新たなる宇宙世紀サーガ第2弾。

ソリッドな文体は戦記物に良く似合う。それでいて描写は丁寧だ。例えば「司令部区画」という語の初出時には《コマンド・コントロール》とルビを振り、その後はコマンド・コントロールと音通り呼称する。さらにその後の情景描写の中で司令部区画の様子を描写していく。その出現スパンが離れている分だけ、説明レベルの変更による読者への認識の浸透は深くなるはずだ。対してモビルスーツのAMBAC機動については、略称の正規の語の説明、何を意味するのかの説明を一気に行い、その後MSの実際の機動と戦闘のシーンに入るようにし、語の説明とアクションの説得力の両者を高めるようにしている。一般名詞に近い語と、専門用語に近い語での扱いの違いも計算されているのが良く分かる。

こういった例は枚挙のいとまが無く、ライトノベルの棚に置いてある小説を買ったつもりの人には、思わぬ拾い物に見えるかもしれない。

個人の物語と世界の物語が交錯する中に、情念と同時に無常観を体現するのは、「月に繭 地には果実」や「終戦のローレライ」「亡国のイージス」を書いた福井晴敏らしいと言えばそれまでだが、富野喜幸信者の考えるガンダムの系譜に連なる小説を書ける人は、この人をおいて他にない。

角川文庫と角川スニーカー文庫の両方で刊行されている理由は不明だが、全く棚の違う客層に2分しているという営業判断だろうか。